【レビュー論文を紹介】運動がADHDの子の認知機能や特性に与える効果について科学的にわかってきた?

ADHDの子に対する運動の効果が科学的に証明されつつあります。

今回は2019年の現段階で科学的に分かっていることについてまとめられたこちらのレビュー論文の内容を紹介します。

%E3%82%8D%E3%82%93%E3%81%B6%E3%82%93

新しい情報は何かと英語で、なかなか得ることが出来ません。

でも、せっかくスパーク西京極のブログを読んでいただいている皆さんには知ってもらいたいなと思ったので、大事になるポイントを日本語で簡単にまとめてご紹介します。


【大まかな内容】

・ADHDの子が運動をするとどんなメリットがあるのか?

・脳が発達するメカニズムは?

・どんな運動をすればいいのか?

・科学的に推奨される運動の内容は?


スタジオでの取り組みを交えながら、ご紹介します。


ADHDの子が運動をするとどんなメリットがあるのか?

そもそも特性の有無に関係無く運動をするだけで、生理学的、心理学的、認知神経科学的な好影響がたくさんあります。

 

・ストレス、不安、うつ状態などネガティブな感情の緩和

・実行機能や記憶力の向上を含む認知機能面に対するポジティブな効果→脳機能へ効果

・一過性の運動では脳波の状態が改善&脳に回る酸素の量が上昇する→脳が覚醒し頭が冴える

・脳由来神経栄養因子:BDNFが大脳皮質や海馬で増加→脳の発達

・灰白質、白質といった脳の神経組織の発達を促進

これら全て科学的に証明が進みつつあります。

もちろん科学は全てを説明しませんし、諸説ある状態は続きますが、運動にこういった効果がある事はほぼ間違いないとされてきています。


ADHD特性を持った子に対する運動効果は、まだ「断言」する域には達していませんが、研究は進み、たくさんのことが分かってきています。

先に紹介した生理学的、心理学的、認知神経科学的な効果はADHDの子たちが持つ特性傾向にも関係しており、好影響を与えます。

 

特に認知機能の中でも重要な役割を果たす実行機能を運動は改善します。

実行機能は課題を遂行するにあたって思考や行動をコントロールするシステムのことです。

 

(*注:実行機能にはワーキングメモリ、注意のコントロール、抑制のコントロール、認知のコントロール、認知の柔軟性などが含まれます。私たちは普段何気ない行動でも、こういったことを瞬時に処理して生活しています。ところがADH傾向のある人の場合、これらの機能を使うことが少々苦手であると言われています。)

 

運動による実行機能の発達と、運動から得られるその他様々なメリットが合わさることで、衝動性、注意欠陥、多動といった特性を自分で調整することに対して効果があると科学的に証明され始めています。

 

ではどうして運動は効果があるのか。

そして、どれくらい運動すれば良いのでしょうか。


一過性の運動でも効果はあり

一過性の運動(例えばスパークに1回来る)でも一定の効果が認められています。

特性の有無に関わらず、運動をした後は実行機能を推察するテストの結果が良くなる傾向にあるということが分かっています。

 

これは一度の運動で脳が劇的に発達したからではなく、先ほど紹介したネガティブな感情の緩和や脳波の状態、脳の酸素状態が良くなること等に由来していると考えられています。

つまり、実行機能はADHの特性と関係していると言われているので、運動をすることで、一時的に特性の自己調整がしやすくなる可能性があります。

 

確かにスパークで療育をしている最中は問題行動が減ったり、普段できない事ができたりするというシーンを時折見かけます。


ただし、こういった一過性の運動による効果はその時だけのもので、しばらく時間が経てばもとに戻るとされています。

 

では意味が無いのでは?と思われるかもしれませんが、そうではありません。

この一過性の効果でも、何度も何度も蓄積することで良い影響が期待できます。
その証拠に、継続して長期間運動をした場合の方が、一過性の運動よりも大きな効果が科学的に認められています。


継続して運動したほうが効果は高い!

一過性の運動より、長期的に運動を継続した方がADHDの子に対しても、定型発達の子に対しても実行機能や特性に大きな効果が出やすいということが分かっています。

 ではどういった運動を継続していけば良いのでしょうか?



有酸素運動は効果的だった!?

一番ではありませんが、最も手ごろで、科学的にも効果が認められているのは有酸素運動です

まだまだ研究段階ではありますが、様々なことが分かってきています。、

心肺機能の高いADHD児の方が、そうでないADHD児よりも抑制制御機能を測るテストスコアが高いようです。

他にも、被験者数が少ないですが、身体活動量と実行機能のテスト結果に相関関係があるというデータもあります。

有酸素運動が良い!!と言っても無理にマラソンなどをさせる必要はありません。

たくさん走り回れるような遊び、

登山や川など自然と心肺機能を鍛えることができる遊び、

できるだけ楽しく息が弾むような遊びに連れ出してあげることが大切です。

それで有酸素運動になります。

 

運動の強度(激しさ)は軽く息が弾む程度で構いません。

アスリートほど心拍数を高めた過酷な運動じゃなくて大丈夫です。

ウォーキングからジョギング程度の強度で効果は認められています。

 

スパーク西京極に来て下さった時に療育士たちとキャーキャー言いながら楽しく遊んでいます。

あの時の運動レベルで科学的にもOKなんです。

そして、キャーキャー楽しく遊んでいる、それだけでも脳に大きな効果が期待できると科学的裏付けがされ始めているのです。



他にはどんな運動が良い?

有酸素運動以外でも運動の効果は認められています。

最も効果が高いのは、様々な運動に長期間取り組んだ場合です。

「子どもが様々な運動に取り組む」、これぞまさに「自由な遊び」の出番であり、遊びがいかに重要かを物語っています。

特定の運動ばかりを無理矢理させる環境では、様々な運動に触れることはできません。

遊びという自由さがあるからこそ、子ども自身が自ら進んで、楽しく、様々な運動に取り組めるのです。

 

ちなみに、有酸素運動よりも、コーディネーションを必要とする運動(投げたり蹴ったり登ったり)、スポーツ活動などの方が実行機能向上への効果が大きいという研究もあります。

もちろん、スパーク西京極では遊びを通じてこういったコーディネーションを必要とする運動なども行っています。



最も良くないのは、非活動的な習慣を送っている場合かもしれません。

そもそも定型発達児よりもADHD児の方が身体活動量の推奨レベルを満たしていない可能性が高いようです。

そうなると認知機能や特性による困難さに加えて、肥満や生活習慣病のリスクまで高めてしまいます。


何分くらい、どれくらいの激しさで運動をする?

それではこういった運動(遊び)はどれくらい行えばよいのでしょうか。

まず時間ですが、1回あたり10分以下の運動では効果が出にくく、11分以上からがターニングポイントになるようです。

数々の研究をメタ分析した結果では20~30分の運動で効果が出る可能性があるとされています。

 

ですから療育では最低でも15~20分はたくさん動き回る遊びをしたいなと考えています。

(☆もちろん強制はしませんし、それ以上の時間も大歓迎です。

90分の運動を5週間続けたら大きな効果が出たという研究もあります。)

 

スパーク西京極での療育は1回あたり60分ですので時間は十分にあります。

脳のコンディションを良くする意味も込めると、できるだけ序盤に走り回ったりできるとベストです。


次に運動(遊び)の強度です。

低~中強度=最大心拍数(脈拍)の40~75%で効果が認められています。

スパーク西京極に来てくれる未就学児(5歳)であれば、1分間に86拍~161拍程度です。

ちょっと走り回ったり、何回もジャンプしたりするだけで十分に到達できる範囲です。

 

もちろんもっと高い強度でも効果はありますが、継続できなくては意味がありません。

 

効果が出始める継続期間ですが、こればかりは個人差が最も大きいのではないでしょうか。

それを踏まえた上で言うと、最短でも5~10週間はかかります。

効果の大きさも、大きなものか小さなものか、これも個人差が大きく、断言できるものではありません。

 

それでも根気よく運動(遊び)はたくさん続けていただきたく思います。

運動をすること、遊ぶことで発達に対してメリットが出る可能性は合っても、デメリットが出る可能性は極めて低いですから。


なぜ運動で脳の発達に効果が出るの? 

脳の発達に効果が出る理由についても研究が進んでいます。

まずは1回の運動をすることで脳に起こる現象からご紹介します。


脳波には数種類ありますが、集中や注意に関係するのがβ(ベータ)波、寝る時(不活動時)の脳波がΘ(シータ)波です。

運動をすることで、β派が有意になり、脳が覚醒します。

また、運動をするとリラックスを司るα波も高まると言われています。

すると、脳が覚醒しつつも(起きつつも)、リラックスした状態になります。

それと並行して血流が促進され、脳に行き渡る酸素量も増加します。

注意力やその他の実行機能を最大限に使えるコンディションができあがります。


こういった最高の状態で、遊びの中で脳を最大限使い、自己調整する、できた、という経験の繰り返しが長期的な発達に繋がります。

 

また、運動をした後には脳由来神経栄養因子:BDNFが脳の皮質、海馬で発現することが分かっています。

BDNFは脳の神経細胞を成長させる役割があります。

運動を継続し、BDNFを繰り返し発現させることで脳の発達が促されると考えられています。



長期的に運動を継続することで脳に起こる変化も科学的に証明が進んでいます。

特に前頭前野、線条体、前頭頭頂皮質、中脳皮質などのADHD児が定型発達児とは異なった発達やネットワークを見せる部位に対して効果があると分かってきました。

そういった部位の神経組織の発達を促すことが運動によって可能であると証明されてきています。

衝動性や多動、注意欠陥といった特性は必ずしも悪いものではなく、それを自分で制御する能力が求められます。

そこに対して運動が効果的であるという科学的な裏付けになります。


スパーク西京極での取り組み

今回紹介したレビュー論文はスパーク西京極での取り組みを科学的に裏付けるものになりました。

60分ある療育時間の中で、基本的には動き回るので、有酸素運動の効果が出る条件は満たしています。

他にもボールや大きなおもちゃ、自分や療育士の体を使ってコーディネーションを必要とする運動もたくさん行なっています。

 

加えて、スパークでは子ども自らが「やりたい!」と思った感情を大切にしています。

どんなに素晴らしい効果が期待される運動でも、「やりたい!」という感情、「楽しい」という感情、リラックスできる環境が無ければ脳に良い刺激は入らないと言われています。

 

スパーク西京極では、科学的に効果が証明されつつある運動に、感情へのアプローチを組み合わせた療育をしています。


<このブログ記事の参考文献&画像引用>

・Lasse Christiansen et al: Efects of Exercise on Cognitive Performance in Children and Adolescents with ADHD: Potential Mechanisms and Evidence-based Recommendations. J. Clin. Med. 2019, 8, 841.

お問い合わせ

FB share