前回に続き、スタジオで展開される遊びが子どもたちの発達にどう影響しているか、どんな能力が鍛えられるかをご紹介します。
今回は「協調運動」です。
遊びをする上での前提は前回の内容と同じです。
その遊びの中で自然と協調運動になることに取り組んでもらいます。
本人がやりたいと思う感情を大切にしています。
感情に働きかける、他者と遊び共感する、体をたくさん動かす、それらが組み合わさって心が育まれることで発達が促されます。
協調運動とは同時に複数の動作を1つにまとめて行うことです。
身近な例でいうと、
・ハサミでものを切る(物を持つ手とハサミを動かす手が別々の動き)
・お茶碗を持ってお箸でご飯を食べる
・縄跳び(縄を回しながらタイミングよく跳ぶ)
・ジャングルジムを登る、降りる
・ボールを投げる(足の踏み出し、体の回転、ボールを離す)
・ピアノ(左右の手がばらばらの動き、足も使う)
日常生活や運動面で不器用さのある子の場合、協調運動が苦手な場合があります。
そこへのアプローチとして、療育では遊びの中で自然と協調運動ができるように遊びを展開しています。
スタジオでよく見られる遊びの例
・登る(布で壁登り、マットの山登り療育士の体登りなど)
→上手く手足を動かしながら、次の手足の置き場を見て考えて動く。適切なタイミングで適切な部位の力を入れる。
・くぐる
→適切なサイズに体をたたみながら、手足を動かして進む。
・キッズステップを渡る、渡りながらボールをキャッチしたり運んだり etc...
・ボール遊び
→全身をタイミングよく上手く使わないとボールは遠くに飛ばない、蹴れない、狙ったところに飛ばない
協調運動は日常生活で起こりうる不器用さを改善していくために取り入れています。
そして、協調運動が十分にできるようになってきたらスパークではさらに次の段階を目指しています。
それは、リズム良く動くことです。
リズムと言うと、音楽に合わせて運動すること?と思われがちですが、それだけではありません。
確かに音楽に合わせて運動をすることは、体のリズムを養う為に有効な手段の1つではあります。
リズム良く運動するとは一定のタイミング、リズムで動き続けることです。
歩行をイメージしていただくと、ずっと一定のリズムで体を動かしていることが分かると思います。
リズムを変える(速くする)と早歩き→走行になります。
音楽に合わせて体を動かすのも、4拍子なら4拍子という一定のリズムで体を動かし続けることになります。
音楽という外からの客観的な基準がある分、リズムを整えやすいです。
音楽を伴わない様々な運動・遊び・スポーツも自分の内部で感じられるリズムを刻んでいくことで高度なものになっていきます。
体を動かす時のリズムを自然と刻めるようになるには、何度も何度もたくさん体を動かしていくことが何よりです。
縄跳びであれば、同じリズムで何回も続けて跳べること。
むしろリズムがばらばらだと何回も続けて跳べませんね。
子どもたちは本来、たくさん遊ぶ中で体のリズムを養っていくものです。
スパークでは、感情やセルフレギュレーション能力、社会性の発達に働きかけるとともに、自然と身体能力にもプラスになるような豊かな遊び場を作りに努めています。
スパーク運動療育では様々な種類の遊びを行います。
子どもが興味を持って取り組み始める、療育士が仕掛ける、別の子がしている遊びに加わるなど始まり方は様々ですが、それぞれの遊びには狙いがあります。
*「狙い」と言ってしまうと、療育士が仕掛けた以外の遊びは無駄というふうに捉えられてしまうかもしれませんが、そういうわけではありません。自然に成立する遊びすべてに子どもの成長に必要な意味があります。
子どもの時期にはいろいろな種類、環境で遊ぶことが重要です。
というのも、遊びの種類によってメインで使う機能、体への効果、鍛えられる能力、発達への影響が異なるからです。
スパークはその遊び場を提供することで発達を促すことを目的としています。
そこで、スパークでおこなっているそれぞれの遊びの中で自然と鍛えられている能力、得られる効果を遊びごとに分類し、何回かに分けてご紹介していこうと思います。
(本来はきっちり分類できないのが遊びです。)
今日は有酸素運動を取り上げていきます。
鬼ごっこ、ラミネート集め、追いかけっこ、かけっこなどが有酸素運動にあてはまります。
イメージとしてはちゃっちゃか走り回る、動き回ることで、脈と呼吸が上がる運動です。
遊び内容は本人が創造したものや、療育士やシェアしている子の遊びに加わったりと様々です。
ただし強制して何かをさせるわけではなく、子どもの創造性と「やりたい」という感情から自発的に始めた遊びをしています。
ではなぜ有酸素運動をするか。
それは遊びを通した社会性・感情の発達に加え、血流を促進して脳のコンディションを良くするためです。
私たち大人も気分が乗らないときや、めんどくさい時に少し体を動かすとシャキッとしたり目が覚めたりするときの感覚です。
脳は神経細胞の集まりです。
神経細胞は酸素と糖質をエネルギーとしています。
血流が良くなると酸素と糖質が脳に活発に運ばれ、コンディションが良くなります(脳の活性化とか頭が冴えると言われる)。
その他にもホルモン状態の変化を伴ったりして私たちの脳と体は活動的になります。
また、様々な体を使った遊びや活動をして脳を使うことで神経の伝達経路に働きかけることが出来ます。
体を動かすこと、考えること、すべての行動は脳から神経を通じて体に指令を出すことです。
これが脳(神経細胞の集まり)を鍛えることであり、発達が促されることにつながります。
それに加えて他者と一緒に活動することで社会性にも働きかけることが出来ます。
人間は生きていくために体を動かし、考え、他者と関わらなければいけません。
それを通じて心身共に成長していく仕組みになっています。
療育ではそれができる「良い遊び場」の提供をしています。
有酸素運動に分類されるような遊びもその一環です。
もう少し科学的に掘り下げてみます。
有酸素運動をすることで様々なホルモン・神経伝達物質が脳や身体器官から分泌されることが何年も前から科学的に証明されています。
ホルモンや神経伝達物質は私たちの脳と体に働きかけ、気分の落ち着きや高揚、リラックス、多幸感など「感情」のコントロールに関係しています。
・ドーパミン(快感情)
・アドレナリン(高揚感)
・セロトニン(落ち着き、リラックス)
・エンドルフィン(多幸感)
など
行動には「感情」が先立ちます。
「感情」に働きかけることはすべての行動の根底に働きかけることです。
そういった意味で、感情に働きかけてくれる有酸素運動は効果的なものであると考えています。
また、有酸素運動をすることで脳由来神経成長因子(BDNF)という物質が分泌されることが明らかになってきています。
BDNFは脳細胞、脳の血管の成長を促す物質です。
これも遊びが脳を鍛えることになる理由の一つです。
体を動かし、考え、感情を出す、すべて神経・脳を通じて行われます。
たくさん使うことで人は発達します。
先述しましたが、行動には感情が先立ちます。
「やりたい」「面白そう」と思うからこそ活動取り組めますし、「楽しい」「もっと!」と思うからこそ継続ができます。
だからこそ遊びは子どもの自発的なもの(創った、興味をもった)に療育士が一緒になって遊ぶスタンスをとっています。
いくら発達に良いからと言っても、強制的に何かさせることは感情を伴わないので基本的には行いません。
なので、「有酸素運動をさせている」ではなく、「結果的に有酸素運動の色が強い遊びになった。その中で発達が促されている」というイメージでしょうか。
有酸素運動に分類される以外の遊びでも同じです。
そして、どちらかというとスパークでは遊びを通じた社会性や感情の発達にも重きを置いています。
遊びの内容も大切ですが、それが何よりも重要という位置づけではありません。
スタジオには様々な特性を持った子どもたちが来てくれています。
自閉傾向のある子、注意欠陥・多動の傾向がある子、発達がゆっくりの子、不器用さや力加減が苦手な子などなど。
1人1人の特性を理解するのはなかなか簡単なことではないかもしれません。
ですが、今回は少しでも特性を理解する助けになればと、1つの考え方をご紹介します。
特性と言われるものは、多かれ少なかれ重複します。
1つの特性が突出している子(他の特性は程度が弱い)もいれば、複数が重複している(いずれも強く出ている)子もいます。
定型発達と言われる人であっても、こだわりがあったり、衝動的な一面があったりと特性は「重複して存在」はしています。
ですが定型発達と言われる人は多くの場合、そのこだわりや衝動性などの特性が日常生活に支障をきたすほどではありません。
個性的な人、変わり者と言われる人は、ある特性が強く出ているけれど、支障は出ない程度、もしくは問題にならない環境にいたりします。
発達に難があると言われる子たちは、そういった特性が現代の日常生活・社会生活において支障をきたす、もしくはきたしかねないほどに強いと言われています。
つまり、特性は多かれ少なかれ重複し、それぞれの程度に差があると言えます。
発達に難がある子は、それに加えて運動面の不器用さ(DCD)や発達スピードがゆっくりだったりと様々です。
また、自閉傾向の強い子が場所によってそわそわし始めて、ADH的な振る舞いが出ることもあります。
逆に、ADH傾向の子が、ある特定のことに興味を持ち、ずっとそれをしている、いわゆる「過集中」に入ることもあります。
過集中だと一見、自閉特性ではないかと感じることがありますが、普段はADH傾向が強く、何が何だか分からなくなることも。
さらに、複数の特性が強くて普段はお互いを打ち消してしまっており、ふとした時に困りごとが出てくるパターンもあります。
このように、特性の出方は人それぞれであり、複雑です。
こういった中で一人一人の特性を理解するために、XYのグラフで考える方法があります(*1)。
縦軸がAS(自閉傾向)、横軸がADH(注意欠陥・多動傾向)とします。
ASが強いほど縦に、ADHが強いほど横にいきます。
(グラフは本田秀夫 2018を参考にしました)
赤はどちらも強く重複。
青はASが強いが、ADHはわずかで、ASに関してはASD(自閉”症”)と言われるレベル。
緑はADHが強いが、ASはわずかで、ADHはADHD(注意欠陥・多動”症”)と言われるレベル。
黄はASDともADHDとも言い切れませんが、どちらの特性もある程度強く、様々な場面で困りごとが出ます。
黒はいずれの特性も、あるもののわずかで、いわゆる定型発達。
紫はやや自閉傾向が強いものの、生活に支障が出ないレベルであったり、環境的に問題が無いちょっと個性的な人。
皆さんのお子様の場合はどのあたりに該当するでしょうか?
このグラフに加えて、運動面の不器用さや発達のスピードなども並行して考えてみると、少し特性について理解がしやすくなります。
そのうえで環境を調整したり、接し方を考えていくことが大切になってきます。
ざーっとしか説明することができませんでしたが、何かのお役に立てれば幸いです。
より詳しい内容や正確なグラフ等は、参考にした書籍から学ぶことができます。
本田秀夫: 発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち SBクリエイティブ 2018年
今日は少しだけ小難しい話をしたいと思います。
療育では必ずしも走ったり跳んだりといった「ダイナミックな運動遊び」だけをしているわけではなく、こじんまりとした遊びや感覚を楽しむ遊びをするときもあります。
一見意味がなさそうに思えるかもしれませんが、実はそこには子どもの発達に大きな意味があります。
スタジオでは、遊びという運動を通じて療育をしています。
ところが「運動」という言葉が示す範囲はとても幅広いものです。
歩く、走る、ジャンプする、何かスポーツをすることはもちろん運動です。
それ以外にも、話す、目で追う、つかむ、握る、呼吸をすること等も運動です。
日常生活で必要な家事や通勤(車でも運転するという運動)なんかもすべて運動です。
つまり、生きている限り常に何らかの運動をしていることになります。
そう考えると、運動療育だからと粗大運動だけをしていれば良いというわけではないことが分かって頂けると思います。
スパークでは行動を強制することは無いので、自然と様々な運動遊びをすることになりますが。
*粗大運動=体の姿勢保持や体重移動をメインとする運動。走る・跳ぶ・投げる・バランスを取るなど。
*微細運動=指先、手先を使った運動。字を書く、ボタンの着脱、折り紙など。
*協調運動=同時に複数の動作をする。縄跳び(縄を回す&ジャンプ)など。
こういった様々な運動を遊びの中で自然に取り入れ、鍛えていくことが必要になります。
そして、こういった様々な運動ができるようになるまでには段階があります。
その段階の一番最初であり、すべての基礎であるのが五感と平衡感覚、固有感覚です。
*五感=視覚、味覚、嗅覚、聴覚、触覚
*平衡感覚=体のバランスをとる感覚。耳にある三半規管や耳石器がセンサー。
*固有感覚=自分の体の関節や筋肉がどの程度曲がっているか、張っているか感じる能力。
こういった様々な感覚を十分に刺激し、使っていくことで初めて姿勢の保持やボディイメージの形成、言語機能、体の協調性、運動のコントロール、リズム感など、生きていくうえで大切になる能力の形成がなされます。
そのためスタジオでは、子どもが興味を示せばその遊びをやめさせることなく、療育士が寄り添い、十分に感覚を楽しんでもらっています。
洗濯バサミで細かい遊びをし始めたら、一緒にたくさんします。
面白い感触のおもちゃを見つけて遊び始めたら、一緒に楽しみます。
これらも微細運動、感覚刺激としてとても重要だからです。
五感と固有感覚、平衡感覚をたくさん刺激し、使い、その上にある体のコントロールやボディイメージの形成、体の協調性などが身についてくることは、運動の形成以外にもメリットがあります。
こういった感覚は日常での集中力やまとめる力、学習する力、自己評価など、様々な事柄の土台にもなります。
なので、粗大運動だけでなく微細運動や協調運動、感覚を刺激する遊び、すべて含めて運動療育と思っていただければと思います。